主の執念は、疫病もビビる!
これは、少し前の夏のお話である。
連隊戦~海辺の陣~真最中、海辺でバカンスを楽しんでいた野生の山鳥毛は、海が光っている事に気がつく。
「はて、夜光貝か?」
山鳥毛が夜光貝だと思っている海の中に光っているものは、しだいに山鳥毛の方に近づいた。
「夜光貝は、動くのか!」
山鳥毛は、驚きながらも、光の方に目線をやると、夜光貝だと思っているものは、どんどん山鳥毛に近づいてくる。そして、ある程度の距離に近づいた所で、水しぶきをあげて奇妙な姿をした生き物が現れた。
「うわぁ!」
山鳥毛は、思わず声を出し驚いた。それもそのはず、突然、現れた奇妙な姿をした生き物は、山鳥毛が今まで見た事のない生物だったからなのだ。それは、顔は人間に似たような顔つきだが、嘴があり、下半身は鱗でおおわれており、足は、三本足で、人魚とも違う不思議な生き物だった。
山鳥毛は、驚きすぎて固まっていると、その奇妙な姿をした生き物は、山鳥毛に話しかける。
「これから、六ヶ年の間は、諸国で豊作が続く。しかし、同時に疫病が流行してしまうので、私の姿を描き写した絵を人々に早々に見せるがよい」
奇妙な姿をした生き物は、そう言いきって満足げな表情をしたが、山鳥毛は、即答でこう返す。
「すまない。私は、バカンス中だ。それは、他の者に伝えてくれ。私は、オンとオフは徹底的にするタイプでな」
奇妙な生き物は、衝撃を受けて、固まってしまった。
(うわ! 数百年ぶりにお告げをやってみたけど、数百年も経つと、人間の反応もこんなに変わる訳? うわ! 怖!うわ! 怖!うわ!うわ!)
ふいに、山鳥毛は、奇妙な生き物に近づき、少し遠い浜辺の方に指を指す。
「あちらに、ガヤガヤ騒いでいる人々……いや、正確に言うと、刀剣男士たちなのだが、その者たちに伝えてくれるとありがたい」
奇妙な生き物は、初めて【刀剣男士】という言葉を聞いて、首を傾げた。
山鳥毛は、その様子を見て、同じく首を傾げた。
「なんで、一緒に首を傾げてるんじゃい!」
奇妙な生き物は、思わず、セルフ突っ込みをした。そうすると、山鳥毛は、ますます首を傾げる。
「私は、あなたに、何か気に障る事をしただろうか?」
奇妙な生き物は、心の中で悟った。
(この人、見た目、893だけど、中身は、相当な天然なのかもしれない)
奇妙な生き物は、急に咳払いをし、山鳥毛に尋ねる。
「あの、すみません。私、アマビエって言う妖怪なんですけどね。何分、人と話すのが数百年ぶりで、なんて言いますか……時差を感じるというか……そして、刀剣男士とはなんでしょうか?」
山鳥毛は、にこにこしながら答えた。
「刀剣男士とは、精神と技をこめられて造られた刀剣が人の身を得た付喪神だ。ちなみに、私も刀剣男士だ」
奇妙な生き物は、驚いた。
「え? あなた、人間じゃなかったんですね!」
「あぁ」
山鳥毛は、奇妙な生き物アマビコと会話している時に、少し離れている海辺から自分の名前を呼んでいる声が耳に入った。
「アマビコとやら、すまん。私は、今、隠れんぼをしていてな。見つかってはいけないので、これで失礼する」
山鳥毛は、そう言い残し、その場から走って去っていった。
その場に取り残されたアマビエは、しばらく立ち尽くしていると、髪をふりみだし、目が血走っている女性と御伴の刀剣男士が走ってやってきた。
アマビコは、驚いて固まっていた。
(こ、怖い……必死さが尋常じゃないのを感じて、すごく怖い)
女性は、アマビコに、尋ねた。
「もし、そこの奇妙な生き物さん。この辺りで、見た目が、893のような刀剣男士を見かけませんでしたか?」
女性のあまりの必死さに怯え、アマビコは思わず、後ずさりをした。
(こ、怖い!この女性、目が血走りすぎてる!!! 893のような……さっきの人かな……これ、教えた方がいいのかな。それとも言わない方がいいのかな……どうしよう。ってか、私の姿を見ても驚かないんだ! すごいな! この時代の人間!)
アマビコがどう答えるか悩んでいてしばらく黙っていると、御伴の刀剣男士たちが女性に話しかけていた。
「主!こっちじゃなくて、あっちじゃない?」
「大将、そっちかもしれないぜ?」
その会話を聞いて、アマビコは思う。
(さっきの893みたいな刀剣男士が、この人たちにお告げをした方が言ってたな。じゃあ、物は試しで、お告げを言ってみようか)
アマビコは、勇気を出して女性に話かけた。
「あのぅ……」
アマビコは、小声で言うと、女性は、大声で聞き返す。
「何ですか!!! 山鳥毛さん情報ですか! なんでも情報ください!!」
アマビコは思わず、悲鳴を上げた。
「ひぇー」
その様子を見た御伴たち刀剣男士たちは、女性をなだめる。
「主。そんなに圧をかけてはいけません」
御伴の刀剣男士たちになだめられて、女性は、深呼吸をした。
「失礼しました。それで、なんでしょう?」
女性に、きっと目を見開いた状態でアマビコは見られたものだから、アマビコは、一気に冷や汗をかいた。
(怖い! この人、怖い!! 怖いいいいいいい!!!!でも、お告げを言わないと)
「あの……これから、六ヶ年の間は、諸国で豊作が続く。しかし、同時に疫病が流行してしまうので、私の姿を描き写した絵を人々に早々に見せ……てください」
アマビコがお告げを言い終えると、辺りはしんと静まった。
(え? 何、その反応? どうゆう事?)
全く反応がないので、アマビコは、ますます冷や汗をかいた。
そうすると、主と呼ばれている女性は、ぺこりと頭を下げた。
「貴重なお告げをありがとうございます……」
アマビコはお礼を言われて、安心したが、その安心は次の瞬間、見事に打ち消される。
女性は顔を上げた瞬間、長い髪の間から血走った目をアマビコにぎょろりと向けた。
(ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!)
アマビコは、声も出ないくらいに恐怖に襲われた。
女性は、そんなアマビコにお構いなしに近づいた。
「それで、山鳥毛さんは、どこに? どこにいるか知っていますか?」
恐怖のあまりアマビコは、無言で首を振った。
そうすると、女性は、アマビコから離れ、御伴の刀剣男士たちに指示をしていた。
指示をし終えると、女性はアマビコにこう言う。
「もし、山鳥毛さん……あっ、893みたいな人を見つけたら、教えてくださいね。よろしくお願いしますね!!!!!!」
とても強くお願いされたものだから、アマビコは、首を縦にぶんぶん振った。
女性たちは、アマビコの元から去っていき、アマビコは、こう思う。
(絶対、あれ、隠れんぼの域を超えていると思う……)
***
アマビコは、また、しばらしく海の中に立ち尽くしていた。
日が落ちてきた時、アマビコは、海へ戻ろうとした時、見た事もないウイルスたちに遭遇した。
「「こんにちは!僕たち、私たち、新手のウイルスなんだけど、これから、この地に侵食して、悪さをしようと思ってるんだ!!」」
アマビコは、ウイルスたちに忠告した。
「ここに上陸しない方がいいですよ。なんか、すんごい怖いのがいるんで」
「「すんごい怖いもの?」」
アマビコはアマビコは、首を縦に振る。
「私もこんな奇妙な姿をして、疫病退散効果があるんですけどね、それよりもっと怖いものを私は、見たんです。しかも、今さっき!!」
「「え?」」
アマビコは、ウイルスに、事情を話した。
「実はね―」
アマビコから事情を聴き終えたウイルスたちは、震え出していた。
「人間って弱いから、ちょろいと思ってたんですけど、なんかそれ聞いて、悪さする気も失せました」
「そうだね。その方がいいよ。あの執念、ヤバイからやめた方がいいよ」
「「はい、そうします」」
ウイルスたちは、来た道を帰って行った。
(了)